Twitterの「#これを見た字書きさんが私の絵の好きな一枚をSSにして投げつけてくれるタグ」でもちづきさんが書いてくださいました!掲載許可済みです。ありがとうございます!もちづきさんの小説がもっと読めるもちづきさんのpixivはこちらから。
兼さんは付喪神として目を醒ましてから、雨が降ったあと、にょきにょきと成長するたけのこみたいに日に日に大きくなっていった。
最初は人間でいう二、三歳の見た目だったのに、気づいたら今は五歳くらいになっている。本当にたけのこみたいだ。たけから生まれたお姫様の話を沖田さんがしていたのを思い出して、それかもしれない、なんて僕は笑う。兼さんはお姫様なんて言葉が似合わないようなかっこいい付喪神なんだけどね。
「くにひろぉ」
ちょっぴり舌ったらずで可愛い声で僕を呼ぶ。はいはいと返事をすれば、嬉しそうに笑うから僕まで嬉しくなってしまう。これってすごいことだ。
歳さんに連れられて色んなところで人を切るたび、兼さんはどんどん美しくなっていく。
すごい、もっと、もっと。
どこまでも美しくなっていく相棒に惚れ惚れする。
屯所の庭を兼さんと手を繋いで歩く。
隅っこの桜の木。春には見事な花を咲かせてくれることを僕は知っているけど、兼さんはこれから知るのだ。
「きょうもすんのか?」
「うん。お願いします」
僕がお願いすると、しゃーねえなあと無邪気に笑って桜の木に背を預けてくれる。
「はーい、兼さん。背筋伸ばしてー顎引いてー」
「こうか?」
「そうそう」
どんどん成長してしまう兼さんの軌跡をどうにか残したくて、思い付いたのが、背丈を記録するということだった。手にした小刀で木に傷をつける。ごめんなさいと謝りながらもしっかりと。人に見えない僕らが残した痕が見えるのかどうかは定かではないけれど、これは僕達だけの秘密のいたずらのようなものでもあるし、もし見えるなら気づいてほしいなんていうわがままでもあった。
「のびてたか?」
「うん、すごいよ兼さん。前よりも随分おっきくなったねえ」
小刀を袂に仕舞って手を伸ばせば、飛び込んでくる小さな体を受け止めて抱き上げた。しるしをつけたところを見せてあげると不貞腐れた声が耳元から聞こえてくる。
「えーオレちいせえ」
「そんなことないよ」
「ほんとうかあ?」
「ほんとほんと」
まだ若い付喪神だからって甘く見てはいけない。
最近急激に大人に近づいていく兼さんは、今みたいに抱っこさせてくれることも少なくなった。
段々、僕の手を離れていって、それで強くてカッコいい大人の兼さんになったら、僕は背を抜かれてしまうのかな、低くなった声で国広、なんて呼ばれるのかな。
成長していく姿は誇らしくもあり、少し寂しくもある。
「いつか国広よりでっかくなってやるからな!」
心の中を覗いたみたいなずばりな宣言をする兼さんに驚いた。兼さんはなんでもお見通しのようだ。
「それは楽しみだなあ」
「だろお?」
「だったら、今のうちに、めいっぱい兼さんを抱っこしとかないと!」
「はあ?」
あおい目をぱちくりと見開いているのが可愛くて笑った。
ぎゅうっと抱きしめると、あったかい、やさしい匂いがして嬉しくなる。けらけらと笑う心地いい声も、何もかもが愛おしい。
次に背を刻むとき。君はきっと抱っこなんかさせてくれないけれど、どうかどうかその日まで、こうしているのを許してほしい。